キミが刀を紅くした
「もしかしてその話を瀬川の兄さんにしに来たんですか?」
「いや。今のは内緒。村崎殿に話したら暴走しかねないし。言っちゃダメだよ」
「――まあ、俺は言いませんけど」
総司が苦笑いをしたので俺は急いで後ろを振り替える。すると村崎殿がいつの間にかそこに立っていた。いつからだろうと考えていると、彼は俺の傍に腰を下ろした。
俺は身を固まらせる。
「丑松殿、いらしてたんですね」
「あ、うん。あの、いつから」
「帰ったのはついさっきですよ。俺が暴走するから、ぐらいしか聞こえてませんけど」
「あ、えーっと……そうだ!」
俺は話を変えようと改めて村崎殿に向き直った。そしてふと事の深刻さを思い出す。そうだ。俺は彼らを裏切る。それなのにおかしな事を頼みに来たのだった。だけど。
気持ちは揺るぎない。
「村崎殿」
俺は深呼吸をしてから土下座をした。自尊心が邪魔するかと思っていたが、やってみればそうでもなかった。俺はそのまま言葉を続ける。今はもう恥ずかしくも何ともない。
「どうか、中村椿を頼みます」
「どう言う事ですか? それより顔を上げて下さい、丑松殿。お話は聞きますから」
「紅椿を壊すと言う話を宗柄から聞いたんだけど、俺は事情があってそっち側に付く事が出来ないんだ。だけど椿は違うでしょう?」
「えぇ、中村殿は協力して下さると」
「俺は椿を護ることが出来ない。だから村崎殿にお願いしたいんだ。俺は椿に幸せになって欲しいと思ってるから。あの子は――俺に生きる希望を与えてくれた子なんだ」
「丑松殿」
「だからどうか椿を頼む」
「――当然です。俺の命に代えても中村殿は護ります。勿論沖田さんも。大和屋は簡単には死にませんが殺すつもりはありません」
村崎殿は真摯な瞳で俺に告げる。彼が強いことを宗柄から散々聞かされていた俺は、それだけで少し安堵を覚える。椿は彼に護られる。なら、きっと大丈夫だろう、と。
「差し支えなければお聞かせ願いたいのですが、丑松殿が紅椿を壊せないその事情と言うのは何ですか?」
「それは――島原を放っておけないから」
宗柄を殺すと言えば彼はどうするだろう。今この場で俺を殺してしまうだろうか。もしかするとそれが一番良い選択肢かも知れない。なんて考えていると、村崎殿が笑うのをやめた。微笑みすらしない顔を見るのは初めてな気がする。
彼はその顔のまま俺を見た。