キミが刀を紅くした
「嘘を付く理由があるんですね」
「村崎殿、嘘じゃない。島原には俺の母親たちが」
「島原が丑松殿にとって大切なのは分かっています。だけど中村殿を護ると言うのは実質敵に回る側に頼む事ではないですよね。それなら土方さんや、せめて大和屋に頼むべきですね」
この人を怖いと思ったのは初めてだった。ただ恐怖している訳ではなくて、何と言うか宗柄にも似た狂気が甲斐間見える。ここに来た事すら後悔したくなる様な、そんな感じ。
「紅椿を壊すと決めて皆さんに話を持ちかけると決まった時、宗柄が丑松殿だけには自分が伝えると言ってました。だから俺は貴方には伝えられなかったのですが、そこにも何かしらの企みがあったんですね」
「瀬川の兄さん」
「何ですか沖田さん」
「兄さんはもしかして、大和屋の旦那が裏切る事を恐れておいでですか?」
「いいえ。俺は真実を知りたいだけです」
俺はため息を吐く。どうしてこの人たちはこう、真っ直ぐすぎるんだろうかと。宗柄は村崎殿を殺さない為に死のうとするし、村崎殿は何か勘づいている癖に自分の行動を変えようとしない。他に方法があると気付こうともしていないのは、どうしてだ。
俺は何となく呟いた。
「村崎殿も一人で何とかしようとしてる」
誰かに護られていると知らないといけないのに。誰かに思われていると知らないといけないのに。
「俺は詳しくは言わないけど宗柄は確かに企んでるよ。でもそれは村崎殿も同じだ。こんな事なら俺が二人とも斬ってしまえば良いのかも知れないね」
「丑松殿」
「気にしないでくれ。とにかく俺は椿が無事だったらいいよ。あとは二人の問題。あぁ、それと村崎殿」
俺は手を差し出した。
「村崎殿が言った通り、俺は敵になっちゃうけど。村崎殿みたいな武士に出会えて本当によかったと思ってるから」
「丑松殿――こちらこそ。素敵な友人に恵まれて幸せです。俺の身勝手な行動で中村殿とも引き離してしまって、何とお詫びをすれば良いか」
「引き離す? 何も。俺も椿も望んで選んだ事だ。謝るぐらいならやらない方がましだよ。村崎殿はちゃんと選んだんだろ」
「――必ず護りますから」
「頼りにしてる」
彼と握手を交わしてから俺はさっさと立ち上がった。そして島原へ向けた歩いた。