キミが刀を紅くした
土方歳三
正義と言うのは人の戯言に過ぎない。だがその戯言の正義こそが人を救う一手となり、この世を変える数手に成り変るのだ。
近藤勇は、その戯言を大声で話す勇気を持った珍しい男である。
「お前たちが入った時に紅椿が現れたのは、屈辱でしかない」
「情報に翻弄された可能性もあります。確かな筋とは言っても百全て信じられるとは限らなかった」
「あぁ。もしかすると、浪士でさえも囮だったかもしれない」
「はい」
「やはり紅椿は何として俺たちが捕らえなければならんな、トシ。誠の正義の名のもとに、だ」
俺は力強く頷いた。それから昨晩、花簪で起きた件の報告書を全て彼に手渡す。これも徹夜で仕上げたのには、訳があるのだ。
彼は笑顔でそれを受け取る。この人の期待も信頼も破らないのが俺の仕事でもあった。だから何より誰より早く正確に仕事をする。
「お前は仕事が早いな。頼りになるが、ちゃんと睡眠は取らなければいつか倒れてしまうぞ、トシ」
「俺は大丈夫ですよ」
「そう言うな。お前が一番休みの時間が少ないだろう?」
「そりゃ、副長である俺が一番休みを多く取る訳にはいかないからでしょう。仕方ないですよ」
俺が笑うと近藤さんは眉間にしわを寄せていた。心配してくれるのはあり難いが、この世は休んでいても平気な程強くないのだ。
俺は立ち上がり、彼に頭を下げた。そうして部屋を後にする。
紅椿を完全なる悪だと謳う頓所の庭に咲いているのは、皮肉にも真っ赤な椿だった。だけれど花に罪はない。頓所の庭からそれが撤去される事は決してないだろう。
「土方さん」
「何してるんだお前は」
「さっきもらって来たんで、土方さんにも見せようと思いやして」