キミが刀を紅くした
手を繋いで
自分が幸せになる道ばかりを選んできた私にとって、この紅椿への裏切りは幸せの先の自由を掴む為の一歩だと思っていた。だけどそんな簡単なものではないと知らされる。
それは夜中の事だった。
紅椿の裏切りが露見した。と宗柄さんが花簪に走って来たのだ。私は寝ぼけ眼を擦って事情を把握しようと宗柄さんの声に耳を傾ける。
「早く起きろ中村、村崎の件が徳川に露見した。すぐにでも出る準備をしろ」
「え……は、い」
「俺が草苅に話していたのを服部が聞いてやがった。荷物は? これだな? 行くぞ」
「え、あ! 宗柄さん!」
彼は用意していた私の荷物を引ったくり、そのまま私を担いで動き出した。私はあたふたしながらそのまま彼に連れ去られる。暴れた方が宗柄さんは怒るとそう思ったからだ。
いよいよ裏切りが始まったのか。
宗柄さんは私を担いでいるとは思えない速さで瀬川さんの家へ向かった。家に飛び込むと総司さんが驚いて刀を抜いていた。
「旦那、何してるんですこんな夜中に」
私はそっと地面に降ろされる。そして荷物が入った風呂敷を投げ付けられてしまった。総司さんは文句を言ってくれたけれど、宗柄さんは気にせず寝続けている瀬川さんを蹴飛ばした。
瀬川さん入った眉間に盛大なシワを寄せて宗柄さんを睨み付ける。文句は言わない。
「起きろ村崎! 動くぞ!」
瀬川さんは細目のまま立ち上がり、無言のまま刀を腰に差す。宗柄さんはそれを眺めながら辺りの音をずっと聞いている。私もつられてそれを真似したが、あまり分からない。
瀬川さんは準備を済ませて私を見付けると、黙ったままゆっくりと頭を下げてくれた。
「あの、宗柄さん」
「村崎の事は気にするな。それより自分の身を守る算段を考えろ。沖田、何人いる?」
「玄関の方に二人ですかね、あと裏の戸が激しく開いた音がしたんで多分――服部の兄さんが」
来ていると全て言い切る前に、裏口の方から半助さんが現れた。武器を構えている。私の方を見て眉を下げた気がしたのはどうしてだろう。どこか寂しく思えてしまった。
私たちは敵対したのだ。
「沖田!」
「はいはいっと。玄関の方は任せて下さい」
「村崎、中村を連れて行け!」
半助さんは何も言わずに宗柄さんに攻撃を始めた。家の中で刀が交わる音がする。玄関の方でも少し暴れる音が聞こえてきた。
瀬川さんが私の手首を握った。手を繋ぐと言う言葉にしては乱暴に。連れて行くと言う言葉にしてはとても、優しかった。
「やまとや」
「行け! ――また、後でな」
宗柄さんの声が震えていた。その声を聞いた途端に瀬川さんは人が変わったように走りだし、片手に私の手を、片手に刀を持って玄関の方へ向かう。総司さんの姿を見付けた彼は辺りにいる敵を私と手を繋ぎながら倒してしまう。
あまりの早さに足がもつれそうになるが、毎回その時になると丁度彼は足を止める。まるで私の足元を見ているみたいだった。ダンスでもしているかの様。私はそんな事を思いながら血飛沫を身体に浴び続けた。