キミが刀を紅くした
玄関の敵が粗方片付くと私の手はまた強く引かれた。家を飛び出して走って行く。振り返ると総司さんが追ってくる人々を斬り倒していた。一瞬見えた顔は笑っていた。
「瀬川さん、これから何処へ?」
「実は大和屋と一緒に買った屋敷が外れにあるんですよ。そこまで走ります。疲れたら言って下さいね、背負いますから」
さっきまで寝起きだった人は何処へ行ったのか。ハキハキと話すと瀬川さんはさっさと前を向いてしまった。その手に持っていた刀はもう鞘に収まっている。後ろから聞こえて来た刀が交わる音ももう聞こえない。
総司さんはいつの間にか私の隣にいた。刀は鞘に収められているけれどそこから見える鮮血は拭い切れていない。体にも顔にも髪にも深紅の色がついているけれど、多分それは私も人の事が言えないだろう。瀬川さんも。
「瀬川の兄さんは本当に強いなあ」
染々と総司さんが言う。
「俺は中村の姉さんを守りながら刀を振るう事は出来ないですよ。幾ら姉さんの要領が良いからってね。さすがに無理だ」
「沖田さんなら出来ると思いますけど。要領が良いのは貴方も同じじゃないですか」
「ははっ、まあ試しにやってみるなんて事じゃないですからね。このまま姉さんの手は瀬川の兄さんに任せる事にしますよ」
あ、と声を出して瀬川さんは私の手首を離した。私と総司さんは無意識に顔を見合わせ少しだけ笑う。瀬川さんが照れた様に笑ったのが見えたからだ。不思議な人である。
「すいません、気付かなくて」
「いいえ。そのままでもよかったですのに」
「そんな訳には行きませんよ」
瀬川さんは切なく笑う。それは私が丑松さんを思っていた心根を知っているからだろうか。それとも。理由は定かではないけれど、私の心は強く締め付けられてしまった。
数分もしないうちに例の屋敷が見えてきた。外れにこんな立派な屋敷があるなんて知らなかった。外から見れば本当に立派な屋敷。
「兄さん方、紅椿を壊す事に命を懸けすぎて散財したんじゃないでしょうね?」
「まさか」
「そう言えば吉原の旦那が大和屋の旦那も小判を山程持ってきたとか言ってたな。お二人は結構溜め込んでたりするんですか」
「まあ、少なくとも俺は使い道を知りませんからね。今回の事で色んな所にお金を使ってきたんで何だか変な気分だったぐらいです」
がらがらと引き戸を開けた瀬川さんはどうぞと一声上げて私と総司さんを中に招いた。中も立派な屋敷だ。ここを買い取ったなら相当な出費になったのではないだろうか。
「とりあえず落ち着きましょう」
悠長な事を言いながら瀬川さんはお茶をいれ始める。私は手伝おうとしたけれど勝手が分からないのでそのまま待っていた。辺りを見渡す総司さんはさっきまで誰かを斬り殺していたとは思えない程楽しそうだ。
私はふと頬についた誰かの血をなぞった。
「」