キミが刀を紅くした
この人は鋭い所を尋ねてくる。
「大和屋の旦那はこの世で生きたいだけですか? 他にもっと、何か、ないんですか?」
「みたいですよ。大和屋は普段から勝手に好き放題してるでしょう? 大抵の望みは叶えてきたみたいで。少し前ですが、俺が聞いたら大和屋本人がそう答えてましたよ」
「へぇ。以外だなあ」
「それで、中村殿は?」
この人に言えば何となく願いが叶いそうな気がした。私の願いは宗柄さんにすごく似ているかも知れない。ただ、簡単なことだ。
「私は自由になりたいんです」
「今は不自由ですか? まあ逃げ回ってますからかなり不自由な方だとは思いますが」
「いいえ。昔に比べれば自由ですよとても」
瀬川さんが私についた血を拭いきってくれた。外は相変わらず音一つしない。それもそのはず、今は深夜だ。だけど音の一つでもして欲しい。宗柄さんが帰って来ていない。
「昔は命を狙われ続けていました。人には嫌われてましたし。そう思えば今、仲間と呼べるお方が居て、私と話をしてくださる方が居てとても幸せなのですが。人はよく深いものですね。私はもっと自由になりたい」
「なるほど」
「それが私の願いです」
「分かりました」
私はふと戸の方を見た。つられて総司さんも戸を見る。立派な屋敷なのにどこか寂しいのは、騒がしい人が一人もいないからか。
瀬川さんがふと息を吐いた。
「旦那は、手こずってるんですかね」
「まさか」
私は宗柄さんの震えた声を思い出す。
いつか聞いた宗柄さんの作戦を思えば震え声が出るのも仕方がない。彼は死にに行くのだから。私は宗柄さんと瀬川さんを離すのが役目。なのにどうしてか嫌な予感がする。
今彼らは離れているのなに。
「あの、瀬川さん」
「何ですか?」
「この先はどうするのですか? 宗柄さんが来るまでただ、お待ちになるおつもりで?」
「大和屋は来ないと思います」
ため息と共に瀬川さんが立ち上がる。
「あいつからは先に京を出ろと言われています。まずは身の安全を確保しろ、とね。おかしい話だと思いませんか? 紅椿を壊すと言ったのは俺なのに、身を守れなんて」
私は無意識に総司さんに助けを求めた。瀬川さんは気付いているのかもしれない。ならば止めなければいけないのではないだろうか。私たちは瀬川さんを足止めしなければいけない。それが宗柄さんの意志なのに。
だが総司さんは彼にならって立ち上がる。まるで今から出陣すると言わんばかりに目を輝かせて刀を腰にさしこんだ。
「」