キミが刀を紅くした
結局、私に自由なんてないのだろう。一生手に入れられないのだと思う。生きることさえ最早許されないのならば世の為に死ぬ事が正解なのかもしれない、なんて。そんな。
「死にたくないと言えば、生きられますか」
「そう言えば生かされると思ってるのか?」
「思ってるから言っています」
「なら死にたくないと一言先に言えばいいだろうが。回りくどい女だなお前は」
悪のりをした彼は舌打ちをして笑った。
「お前を殺したりしたら吉原がうっせぇだろーが。殺すかよ。バカな勘違いすんな。俺は端から自分が死ぬ気でいるっつーの」
「ならどうして」
「俺が生きる事が願いだと言ったのは特にこれと言った望みがなかったからだ。深読みすんな。それを言ったからどうなるってんだ」
「瀬川さんの、枷になると思って」
「村崎の枷ぇ? 知るか。自分が死んだ後の事まで考えてやる程俺はお人好しじゃねぇ」
私の思慮が単純すぎたのだろうかと思ったけれど、きっと何か意味があったんだろう。私には教えてくれないだけで、きっと。そうじゃなきゃ宗柄さんはあんな事言わない。
再び歩き出した宗柄さんを眺めながら私はゆっくりと息を吐いた。いよいよ心臓がどくんどくんと早鳴りし始める。今会話をしていた人が死んでいくと実感し始めたのだ。
「沖田、先に行って吉原に伝えて来い」
「吉原には新撰組がいるんじゃないんですか」
「だからお前に行けって言ったんだ」
「俺に捕まれって? 姉さんの次は俺ですか」
「土方はまだお前が裏切ったとは新撰組にばらしてねぇんだよ。だから行けって言ってるんだ。お前に最後の機会をやるって事だ」
「最後?」
「戻るなら今だ。中村も一緒に行け」
「私は行きません」
一言そう告げると宗柄さんは総司さんだけを送り出した。そしてふと甘味屋の前にある長椅子に腰をおろす。今が明るくて、彼が血塗れでなければ普通の光景なのだが。
私は言われるまでもなく隣に座った。
「お前は、頭が良いなら察しろよ」
宗柄さんは突然、頭を抱えた。