キミが刀を紅くした
宗柄さんはため息を吐く。
「いや、察してそこにいてくれるのか」
彼は勝手に解釈をして顔を上げる。ぐしゃぐしゃになった髪は無視して。私はただその横顔を眺めていた。情けなく眉が下がる。
「一人になったら逃げそうだ」
「宗柄さんらしくないですね」
「まあそんな日もあるだろ。今夜はお前がよく喋る日でもあるんだ。何か可笑しい日だぜ全く。どうして、こうなったかなあ」
「宗柄さん」
まるで後悔するような一言。
「貴方はどんな未来を見て紅椿を作ったんです? 最初から捨て駒を作るなんて」
「馬鹿らしいってか?」
「らしくないな、と思いまして」
「まあな」
俺は計算高いからな、と自嘲気味に笑った彼は次に空を見上げてため息をついた。星は一つだって出ていないけれど、妙に月が輝いていて眩しい。私は黙っていた。
「だが俺は最初からこういう未来を見ていたぜ。村崎が堂々と徳川の横に立てるような未来をな。これで俺を捕らえたのが瀬川村崎となれば奴は明日から英雄だ。そうだろ?」
「じゃあ最初から壊すつもりで?」
「時期は別に決めちゃいなかったがな。俺が捨て駒なんぞの頂点に立ったのもその為だ。いつか村崎が壊してくれると信じてた」
「――では何処が計算違いなんです?」
私の言葉に反応してこちらを向いた宗柄さんは、少しだけ笑った。どうしてそんな事を言うのかと言いたげだえが私は首を振る。そんな事はどうでもいいから、答えて欲しい。
彼は少し悩んだ。
「まず村崎が紅椿に入った事。それからアイツが今、謀反者になってる事だな。これじゃ紅椿を壊しても本当の英雄にはなれない。少なくとも吉原や土方には反逆者のままだ」
「宗柄さんは瀬川さんを英雄にしたかったんですか? その為の紅椿ですか」
「簡単に言えばな。俺は昔から村崎に救われて生きてきたからアイツの親父さんが反逆者みたいに扱われた時考えたんだ。いつか村崎が堂々と町を歩けるようにしようってな」
「大好きなんですね」
「お前が吉原を思うのとは違うがな」
「――畏れ多いです」
「お前はいつか幸せになれ。良い女なんだから。吉原に養ってもらえ。もしくは村崎に」
「なぜ瀬川さんに?」
「あれも良い男だからな」
まるで弟を自慢するみたいに彼は言う。私はそこで初めて分かった。宗柄さんは瀬川さんが大好きなのだ。家族の様に好きなのだ。謎が一つ溶けて、私は少し微笑んだ。