キミが刀を紅くした
総司が手にしているのは桜の枝である。その花は今にも散りそうな形でうっすらと咲いていた。
「島原で咲いたそうで。季節外れにも程があると思いませんか?」
「あぁ。珍しいな」
「はい。それで吉原の旦那が女たちに見せてやろうってんで一本拝借したらしいんですがね」
「折ったのか」
総司は頷いた。それは女たちが怒ったに違いない。桜だって生きているのだ。女の一部はそう言った事に対しては過剰に反応する。
「でも結局、旦那が回った女すべてに怒られたって言うんで。俺が後始末に回ってるんです」
「そりゃあそうだろうよ。で、それはどう始末をつけるんだ」
「頓所に植えます」
それはまた突然な発案をしたものだな。一度折った桜を生き返らせる事など出来るのだろうか。
人が医術で生き返るように? いや、あれは生き返っているのではないな。まるで魔術か何かではないか。不思議な話だ。
「総司、近藤さんに一つ」
「大丈夫。もう許可は得てます」
「ならいいが」
「あぁ、土方さん。もしかして今から見回りか何かですか?」
「そうだが」
「吉原の旦那に会ったら、頓所に植えときましたって一言伝えてもらえませんかね?」
「会ったらな」
非番となると総司は街へ繰り出して色んな場所を巡っているらしい。それが楽しいのか、日常になっているのかは知らないが。
俺は桜を植えるために穴を掘り出した総司を眺めてから見回りへ行く事にする。物珍しいのか隊士たちが総司の近くに寄っていた。
市中見回りのコースは、一応決まっている。新撰組の誰かが二十四時、必ず街を回っている様にと俺が時間を組んだのだ。
俺は茶屋の前を通って鍛冶屋のある裏通りを歩いた。『大和屋』はしばらく休業しているようだ。
奴は未だに悩んでいるに違いない。友を殺す覚悟を一度でもした自分を恨んでいるに違いない。果たして瀬川村崎には、時代をねじ曲げてまで護る価値があるのかどうか。俺には分からないが。