キミが刀を紅くした
「旦那! やっと見つけた!」
突然総司さんの声が聞こえて来たと思ったら、彼が走ってこちらにやって来た。いよいよ宗柄さんが死に行くのかと思っていたが、辿り着いた総司さんの顔色は最悪で。
宗柄さんが訝しげに問い掛ける。
「土方にでも殺されかけたか」
「見限られたって事で言うなら殺されかけましたけど。それより、旦那」
「吉原に伝えたか」
「いいえ」
「何しに行ったんだよお前は」
宗柄さんはため息を吐き座り込んだ。だが総司さんの顔色はなおらない。言葉にならない言葉を私に向かって投げ掛けた。目が泳いでいる。だけど、やはり言葉にはならない。
「総司さん、落ち着いて」
「落ち着いてます、ただ何と伝えたらいいか分からなくて。その、土方さんが教えてくれたんですけど俺、最後まで聞かなくって」
「沖田、順を追え。まず、島原に行って?」
「行って、土方さんに会いました」
「会って?」
「喋りました。俺は行こうとしたんですけど、止められて。どうせなら土方さんに吉原の旦那の場所、聞こうと思って聞きました」
「それからどうした」
「吉原の、旦那の所へ」
「吉原は居たか?」
「居ました。でも、追い返されて」
段々と総司さんの声が震えてきた。
さすがに異常だと思ったのか、宗柄さんは彼のそばへ行き、膝を地面につける。顔を覗き見上げるような形で首をかしげた。
「どうして追い返された」
「それが、兄さんの事で、違って、話が」
「何の話だ。兄さんって村崎か?」
「大和屋の旦那が来るからって言ったのに、吉原の旦那は、違って。死なないって」
「おい、沖田」
私は見かねて宗柄さんの肩を掴んだ。そして彼が立ち上がると同時に私が座り込む。まず、総司さんに深呼吸する様に指示した。それを終えてから総司さんは私を見て言う。
「行けって言ったんです。吉原の旦那は」
「どこに行けと言いました?」
「瀬川の兄さんの所へ」
「なぜか分かります?」
「その時は分からなくて。でも帰りに、土方さんにまた見つかって。そしたら言われて」
「何を言われましたか?」
「無駄だったなって」
「無駄?」
「――もう紅椿の件は解決したって」
私は宗柄さんを見る。彼が死んで初めて紅椿の件は終わるはず。だが彼は生きている。彼自身、まだ頭が回っていない様で。眉間にシワを寄せたまま総司さんを見ていた。
「紅椿の首謀者を捕らえたって部下から連絡が、あったみたいで、その、人が」
「誰なんです?」
「瀬川の兄さんを捕まえたって」
夜が静かに明けていった。
(03:手を繋いで 終)