キミが刀を紅くした
土方さんの異様な行動に隊士は刀を止めた。大和屋の旦那も土方さんを睨み付けた。彼の言葉を俺たちはただ静かに待っていた。
「謀反、それがあいつの罪だ」
「村崎は何処だ」
「お前らは最後まで将軍の駒だな」
「村崎は何処だって聞いてんだ!」
「瀬川は今頃、介錯人の前だろうな」
「――場所は」
「行っても無駄だ。もう間に合わん」
「場所は何処だ!」
「行ってどうする」
「さっさと言えよ!」
「瀬川はお前のせいで死ぬ」
「言えって言ってんのが聞こえねぇのか!」
大和屋の旦那は刀を放って土方さんの胸ぐらを掴み上げた。だが土方さんは顔色も変えずに淡々と告げる。俺は刀を捨てた。
土方さんは俺を見た。
「瀬川はお前の言葉を守っていた。お前の行く末も案じていた。刑は河原で執行される。間に合うとは思わんが、行ってやれ。大和屋と違ってお前が行くなら瀬川も言葉の一つくらいかけてくれるだろうからな」
旦那は土方さんを捨てて走り出した。
「土方さん」
「俺はこれを伝える為だけにあの人に生かされた。暫くしたら蝦夷に放り出されるだろうよ。お前とも会うことはねぇな、総司」
「――はい」
「本当に罪を負ったのは瀬川じゃない。俺もお前も大和屋と同じ大罪だ。残りの奴らも勿論な。それなのに生き延びるのは本当の罪人だ。本当、この世は狂ってやがるな」
「今日はえらく、饒舌ですね」
「お前はえらく無口だな」
「そうですか」
「早く行け、大和屋を止めるのはもうお前しか残ってねぇんだ。介錯人まで殺されちゃ始末のしようがねぇよ。頼むぜ、総司」
土方さんはいつもみたいに苦笑いした。俺はそれを眺めてから唇を噛み締めて踵を返して飛び出した。近藤さんの喚きはいつまでも聞こえている。土方さんはあの人を最後まで放っておけなかったんだろう。俺の分まで土方さんは背負って生きていくのだろう。
全ての罪を背負ったのは何も瀬川の兄さんだけではないと言うこと。土方さんもまた。
――もう二度と、会うことはないだろう。
俺は大和屋の旦那を追った。旦那は遥か先を走っているらしく、姿は見えなかった。しかし行ってどうすると言うのだろう。刑の執行は止められないかもしれない。残念ながら俺も旦那も丸腰だ。助けの仲間もいない。
だが旦那なら丸腰でも介錯人を倒してしまうのだろうな。俺も体当たりぐらい学んでおいたらよかった、なんて考えた。