キミが刀を紅くした

 今の所、瀬川が紅椿の件を他言している様子はない。彼には紅椿の件で何かあるなら俺に直接言えと言ってあるから、対処の仕様は一応、あると思うのだが。



「トシ、見回りかい?」



 裏通りから大通りに出て、色街の前を通った時。不意にそんな声がした。吉原だ。どうせ大和屋の様子を見た帰りだろうな。

 俺は振り返る。



「そうだが、お前は?」


「ちょっと野暮用でね。宗柄の処まで出向いてたんだけど」


「そうか」


「村崎殿の状況を事細かに教えてくれと言われたんだよ。全くあいつは懲りてないったらないね」


「瀬川村崎? 会ったのか?」


「会ってない。まあ元気だろうし宗柄には適当に伝えたけどね」



 総司が吉原の事を適当な男だと言った訳が今分かった気がする。

 俺は適当に頷いておいた。大和屋がそれ程までに誰かを気にするのは珍しい。俺は紅椿に入る前から彼を知っていたが、どちらかと言えば大和屋は無情だった。


 他人には興味がない様だった。



「そういえば、総司が桜の枝を頓所に植えるからと言っていたぞ」


「あぁ、そうか。助かるよ。実を言うと宗柄の所へ行ったのも、島原に居たら怒られちまうからなんだよ。色んな女たちにね」


「分かるだろ、女の目の前で花を折った後の結末ぐらい」


「それが分かるから、トシは女にモテるんだよ。俺には等分分からないね。刀ばかり見てきたから」


「何を。大和屋じゃあるまいし」



 俺は歩き出した。見回りはまだ途中である。こんな処で油を売っている訳にはいかないのだ。

 吉原は俺の後をついて来た。彼は家に帰る途中ではないのか?

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