キミが刀を紅くした
「ところでトシ、新撰組の裏切り者って噂は知ってるかい?」
「あからさまな噂が流れてるんだな。何処で流行ってるんだそれ」
「島原の客は地位も職も様々だからね。色々な処で聞くんだよ」
島原ほど情報が入手しやすい場所はないかもしれない。この場合男から引き出すと言う意味でだ。
「浪士の中に誠の文字を見た人が居るんだよ。当人は見間違いだと自己解決したみたいだけどね」
「……そりゃ、いつの話だ」
「さあ、三日は前かな。疑ってるのは俺とお松だけさ。他は客も女もそんな噂は見向きもしない」
「お松って」
「俺の名付け親。島原の一番奥の屋敷で首代をまとめる女だよ」
「島原の自警団の頭、その息子がお前って言うのは……まさに通り道は決まっていたのだな」
吉原は嬉しそうに笑った。褒めている訳ではないのだけれど、相手がそう取ったのなら別にそれでも良いか。俺は息を吐いた。
誠の文字を背負った浪士。その浪士が何をしようとしているかにも寄るが……火のない所に煙は立たぬと言うぐらいである。
何かがあるらしい。
「ま、何をどうするかはお前さんにお任せするよトシ。俺は誠には一切の興味がないもんでね」
「それにしては頼るな。総司にしろ、俺にしろ。島原に連れ込んでは金も持たせず歩かせてただろ」
「それは女たちが喜ぶからさ。トシと総司は人気者なんだよ。節度ある良い男ってのは島原に来る用なんてないもんだからね」
「そういうものか」
「そうだよ。俺は女たちに目の保養をさせるくらいしか出来ないからね。まあまた頼むよ、トシ」