キミが刀を紅くした
吉原は腕を組んで歩き出した。別れ際に何かを言う訳でもなく彼は自らの住処、遊郭島原に帰って行く。俺はただそれを眺めた。
気付けば、街は随分と騒がしくなっていた。懲りずに誰かが何か仕出かしているのかもしれない。
なんて、ただの予想だったが。
――俺の予想は当たっていた。
「おい、そこで何してるんだ」
市中見回りの意義は街の平和を見届ける為にあると俺は考えているのだが。最近は平和を乱す輩が多すぎて困る。この前もそうだ。
総司が助けに入ったと言う件。あれはただの町人が想いを募らせた結果の行動だったと聞いた。
相手を考えずに自らの想いを押し付ける程迷惑な事はない。
俺はそれを、人に言える立場ではない。それは百も承知だ。だが野次馬が集まる場所には向かわなければならない。仕事だからな。
「あぁ土方さん。丁度良かった」
「何が」
「あの小道の奥に小屋があるのを知っていますか? 古ぼけた誰も使ってない様な小屋です」
「それは知ってるが……お前は何をしに街まで来てるんだ、瀬川」
怪しい男は瀬川村崎だった。いや、怪しい男を追ってきたのが瀬川だったのか。彼は問題を引き寄せる体質なのかも知れないな。
俺は小道を覗いてから瀬川の方へ視線を送った。彼は頷く。
「あそこに人斬りが」
「人斬りだと?」
「はい。確かにこの目で見たんです。あそこの女性も目撃者です」
人斬り。まさか紅椿の面子じゃあるまいな。さすがにもう紅椿の問題はごめんだぞ。俺は表情を崩さないまま瀬川の前に出た。
「土方さん」
「出るな。下がっていろ」
二度ある事は三度あると言う。もし人斬りが紅椿であるならば、不吉以外の何物でもない。いや不吉と言うより運が悪いだけか。