キミが刀を紅くした

 俺は少しずつ例の小屋へ歩いて行く。刀は抜かない。それで済むのなら良いと思っているからだ。

 だが嫌な予感がしてならない。

 古ぼけた小屋。だが確かに声がする。それも、聞いた事のある様な声である。全く持って良い気分ではないが腹を決めなければ。


 誰であろうと、構いはしない。俺は今新撰組の副長だ。街人と街を守るのが役目なのだから。俺は静かに戸をノックした。すると中を賑わせていた声は静まった。



「入るぞ」



 ばたばたと言う音中から聞こえた。逃げているのだろうか。いやだがこの小屋に裏口なんてものはないはずだ。通路が狭すぎる。

 俺は戸を開けた。



「あ、土方さんじゃないですか」


「総司」


「何ですか、そんな顔して。驚きたいのはこっちの方ですよ」


「お前、一人か」


「いや。おーい、みんな出てきても大丈夫みたいですよ。新撰組の土方さんが来たみてぇだ」



 誰に話しているのだろう。小屋に居るのは総司一人だけなのに。俺は黙って彼をしばらく眺めた。

 だが、その誰かとやらが出てくる気配はない。もしかすると吉原が言っていた裏切り者と言うのは総司の事か。いや、まさかな。



「おい、総司」


「土方さんってば怖い顔してるから。みーんな逃げちまったみたいですよ。残念でしたねぇ」


「誰が居たって言うんだ」


「誰って、そこいらの子どもですよ。最近幽霊ってのが流行ってるみたいでね。ここにも何かがいるらいしいからって様子を見に」



 なら人斬りと言うのは。いや、その前に総司の言う子どもたちはどこから逃げたというのか。

 天井は高い。壁から出るなんて忍者屋敷でもない限り無理だ。なら床下だろうか? まさか。

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