キミが刀を紅くした
残った二人の中に、中村椿がいた事は幸いであった。紅椿で何度も顔を合わせた女であるから、多少の無理は通じるだろう。
「土方さん、それで、人斬りは」
「人斬り?」
総司が反応する。俺は静かにそれを止めた。ここで彼が何かを言えば誤魔化す事など出来なくなってしまう。俺は首を振った。
「俺が入った時、あの小屋にはもう、人斬りを追い掛けていたこの沖田総司しか居なかった」
「なんですって?」
「新撰組が聞いて呆れるが、逃がしたんだよ。小屋の床下から逃げやがったらしい。総司もまさかそんな所に道があるとは思わなくてな、立ち往生してたんだと」
「……床下の逃げ道なんて、大の大人が通れる訳ないですよね」
「あぁ。だから困ってたんだ。見たんなら事情を聞きたい。お前さんと若女将は頓所まで来てくれ」
中村は淑やかに頷く。だが瀬川は頷かずに沖田の方をじっと見ていた。何かに勘づいたらしい。それは彼の言葉から理解出来た。
「……やはり子どもですか」
「なに?」
「総司」
今にも喰い付きそうな総司を諌めると、俺は先に小道を出る。中村が黙ってそれに従ったので、瀬川も沖田も歩き出した。
中村は分からないように俺の背を突いた。俺は振り向かず、合図の代わりに小さく小さく頷く。
「総司」
「……はい」
「二人を頓所まで連れていってくれるか、俺は少し寄らなければいけない所があるんだ」
「構いません」
「さっき言った事は忘れるなよ。それと対応は俺が帰ってからやるから。二人にも待って貰うことになるが、構わないだろうか?」
「私は平気ですよ」
中村は先に頷き、瀬川に同意の眼差しを向けた。それに負けたのか、彼も幾度か頷いてくれた。
その後もう一度喋るなよと総司に釘をさして、俺は一人離れた。向かうは色街島原である。