キミが刀を紅くした

 島原は昼間でも賑やかである。勿論夜の方が騒がしいのだが。俺はそんな島原を一番奥まで進んで行った。普段、誠を背負って来る場所ではないので辺りの目は不思議と疑問で一杯らしかった。


 首代、それは島原の自警団だ。島原の掟を破った者を処罰し、花魁や客たちを護る存在である。


 俺はそんな首代の頭、草苅絹松が住む屋敷の戸を叩いていた。お松と呼ばれるその存在は俺も何度か目にした事があるのだが。



「あぁ、貴方は誠の」


「土方歳三だ。草苅殿に伺いたい事があって訪ねさせてもらった」


「お上がりになってお待ちください。すぐにお呼び致しますので」



 俺は言われるがままに屋敷に上がった。島原の奥手になければこの屋敷はさぞ目立っただろう。だが目立たない。闇に埋もれる様にひっそりと建っているからか。

 数分もしないうちに草苅はやって来た。昼間に訪問したと言うのに身なりはしっかり整っている。さすが、と言うべきだろうか。



「お待たせして」


「いや。此方こそ連絡もなしに急な訪問をしてすまない。急ぎの用だったもんでな、申し訳ない」


「構やしません。土方さんには丑松がいつもお世話になっておりますし、島原でも御贔屓に――」


「それは良いんだ、今は新撰組の裏切り者って噂の事が聞きたい」


「あらまあ、もしかして丑松からお聞きになったんですか?」


「まあな。それで、その噂は?」



 草苅は頷いた。彼女は確実に何かを掴んでいるらしい。そうでなければこんなに真摯な顔はしないだろう。俺は言葉を待った。



「私は遊女から、誠の御方が倒幕の侍殿に協力しているとの情報を耳にしました。誠の御方のお名前は存じておりませんが」


「その倒幕の輩は」


「存じております。その方は島原じゃ知らない遊女は居ないくらいのお得意様で御座いますから」


「その名を聞いても構わないか」


「他言無用で御座いますよ。もし必要でしたら、私ではなく丑松に聞いたとでもお言い下さいな」



 草苅は母の顔をして笑い、浪士の名を小さな声で教えてくれた。名前さえ分かれば、裏切り者を推理するのは実に簡単であった。

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