キミが刀を紅くした
――。
俺は刀に付いた血を拭って刀を鞘に納め、屯所に向かった。血を流して倒れる裏切り者は置き去りにして。始末は、もう着けた。
思う所は多々あるが仕方ない。これで全てが丸く納められる。そんな事を思いながら部屋の戸を開けると、瀬川と中村が俺を見た。
「待たせて悪かった。さて、まず瀬川の方から話を聞かせてくれ」
「俺は二人の子どもが人を斬るのを見ました。彼女にぶつかったのはその後小屋の手前で、です」
「そうか。じゃあ中村、お前は瀬川にぶつかってから何を見た」
「私は沖田さんが誰かを追いかけて行く所しか見ておりません」
「子どもは?」
中村は首を振る。それもそのはずである。彼女が子どもを見たのは瀬川にぶつかる前のはずだ。だが俺が問いかけたのはぶつかった後の事だけ。彼女がちゃんと俺の言葉を聞いてくれていた証拠だ。
「土方さん」
戸を開けた総司が突然俺を呼んだ。俺が近付くと彼は耳打つようなひっそりとした声で呟いた。
「二番隊、副隊長の裏が取れました。どうやら例の人身売買事件に手をつけていたそうです」
「あぁ。粛清はした」
「お早い事で。じゃあ一応、浪士にやられてたって事で片しておきます。それで構いませんね」
総司が下がると瀬川が不安そうな顔をする。大和屋が護ろうと尽力した男がこれか。正義だ何だと言う割りに何処か脆い男だ。
何を恐れている。
「――新撰組の二番隊副隊長が、先程例の小屋付近で殺されているのが見つかったそうだ。俺たちの捜査の結果、瀬川が見た人斬りってのはその隊士で間違いなさそうだ。総司も見知った顔を見たと言っていたし、中村も」
「土方さん、俺は人を斬った子どもをこの目で見たんですよ。なのに真実を葬るおつもりですか」
瀬川はあくまでも吠えやがる。
「……悪いが、瀬川。俺の仕事は悪を片す事であって何が正しいかを見定める事じゃないんだよ」
真実の中には密かに残酷な事実が隠されているのだ。正しさは時に知らなくて良い事も公にする。だから悪だけを斬れば良い。
正しさの中の残酷を消す為に。
(00:土方歳三 終)