キミが刀を紅くした
吉原丑松
新撰組の副隊長格が浪士に殺されたらしい。浪士に揺すられた隊士は密かに人身売買に協力していて自らの誠の為に自害したんじゃないかとか言う噂も回っている。
と言うのは表の情報である。誠を裏切る覚悟を持っていた男が簡単に自害する訳がない。それは嘘だ。多分誰かに粛清されのだと俺は考えている。例えば副長とか。
「ねぇ、丑松」
「ん」
「この前、あの土方さんがお松殿を尋ねて来たんだってねぇ」
「あぁ。でも来たのは昼だよ」
「昼でも起こしてくれりゃ、商売するさ。いいや。あの方は見るだけで目の保養になるんだから。何で言っちゃくれないのさ」
「あれはそんなに良い男かい?」
「あぁ。勿論さ」
「それって俺よりも?」
「妬いてるのかい? 全く丑松ったら。あんたより良い男なんてこの世にゃ存在すらしないよ」
「本当に?」
「島原の女なら誰に聞いてもそう言うだろうね。何せあんたは、あたしらの息子なんだから」
夜の空を眺めながら遊女は顔に笑みを浮かべて、乱れもしていない着物の襟をきっちり直した。
二階の屋敷から下を眺めると、女遊びに来た御仁方がうろうろと歩いているのが見える。そしてそれを遊女たちが導いていくのも。
夜の街、色街、花街。それが島原の別の名である。俺はそこで育ち、そこで生きる唯一の男。遊女に育てられた彼女らの一人息子。
「最近は沖田さんの姿を見ないけど、良い人でも出来たかね?」
「総司に? まさか」
「また呼んで来とくれよ、丑松。あのお二方は私らの保養だよ」
「俺で我慢しときなよ」
「馬鹿言いなさんな。あんたは色んな所を回るのに忙しいだろう」
けらけらと笑う彼女は、俺の頭を撫でてにっこりと笑った。仕方ない。今度二人を呼んでくるか。
なんて考えたら、思い出した。
「そういえば俺、お松に呼ばれてたんだった。そろそろ行くよ。仕事の邪魔して悪かったね幸さん」
「邪魔だなんて。呼んだのがお松殿じゃなかったら離さないよ」