キミが刀を紅くした
椿は咲かぬ花。昔に誰かがそう言っていた。記憶は定かではないが、島原に来る前の話だと思う。
彼女も咲かないかもしれない。
「そういえば、先ほど宗柄さんがお見えになりましたよ。もうお元気になったみたいですね」
宗柄が、まさか。村崎殿を殺す決心がついたと言うのだろうか。いや、それはありえないか。
だが元気な姿を見せてしまったら答えは急かなければいけなくなる。殺すかそれとも殺されるか。
「本当に元気だったの?」
「はい。何か問題ですか?」
「いいや。元気になったんなら見舞いはもういらないなぁってね」
「そうですね」
もしかすると、そろそろ紅椿の事情が動くかもしれない。俺は立ち上がり外の暗闇を見つめた。
月が雲に隠れていく。
「さて、そろそろ行こうかな」
「お仕事に?」
「夜も更け過ぎると、他の仕事をやらなきゃならなくなるからね」
椿は頷き、戸を開けた。
「いってらっしゃい」
京旅館から出ると戸がゆっくりと閉じて行った。俺は振り向かずにそのまま闇へ溶けていく。
俺が初めて斬った人は、夜の街で華さんを殺そうとしていた人であった。何歳だったか覚えていないくらい、記憶は曖昧だが。
それ以来、人を斬る事が平生になってしまっていた。島原で起きた出来事は誠の管轄に入らない事が多いから俺は囚われなかった。
そしてある時。
俺を探して宗柄が島原に来た。