キミが刀を紅くした
彼が来た時、俺は既に島原の名を背負ってここの番をしていた。記憶は曖昧だが、宗柄が俺を見て口角を上げた事は覚えている。
――街は変わらず静かだった。今は月明かりがなくなっている分薄気味悪いかもしれない。
物の怪の類がもしも存在しているのならばこう言う時に現れるのだろうと思う。俺は見た事がないが。だが今夜は物の怪ではなく、誠を背負い市中を見回る人を見つけた。特に何をした訳でもないのだが、俺は密かに進路を変える。
そして遠回りをして京の街の裏道にある賭博場へ足を運んだ。
「おい、あいつは」
「丑松の野郎、また来やがった」
「行こうぜ。あいつに関わると運が全部吸い取られちまうからな」
賭博場に入ってすぐ、そんな声が聞こえた。賭けを楽しむ男たちは俺の姿を見て道を開けていく。
壮観、とはこの事か。
俺はそんな奴らを無視して、奥へ進んでいく。サイコロの音が夜の静けさに響いている気がした。だが残念ながら、それはすぐに野郎共の声で消えていくのだが。
「邪魔、するよ」
戸を開けていつもの挨拶をすると、野郎共の声は一瞬にして消えて行った。サイコロが器に落ちる音が静かな小屋に、ただ響く。
俺は器に落ちた真っ赤なサイコロを確認して、空いている場所に腰を降ろし、胡坐をかいた。
「吉原の旦那じゃねぇか」
「そのサイコロ、振ったのかい」
「い、いや……落としちまっただけだ。あんたも賭けるのか?」
「うん」
腕や背に入れた刺青を自慢していた男たちが俺を睨みつけた。まるで俺に脅しかける様である。
俺は気にせず小判を一枚差し出して、左右を見た。丁か半か。賭けられている数が多いのは半だ。
「旦那、どっちだい」
「丁、だね」
俺の言葉を聞いた親は、サイコロを見せた。辺りの男たちは静かにその結果を見守るだけである。