キミが刀を紅くした
賭け事は常に勝つか負けるか。親か子がいかさまでもしない限りその確立は二分の一である。これは賭けにおいて不動の事実だ。
「……は、半!」
丁半と称される賭事はまさにそれを表しているものだと思う。丁に賭けるか、半に賭けるか。どちらが勝つかはきっちり二分の一。
過去がどうであれ丁半の確立はいつも変わらず二分の一。イカサマがない限り、結果はサイコロを振った後にしか出ない。絶対に。
特にあの赤いサイコロは華さんのサイコロだから、いかさま等の細工は出来ない。ただでさえ普通と違う色なのだからこれでいかさまなどすればサイコロが怪しいと言われるのは目に見えている。
だから、あのサイコロには細工はない。あったらすぐ分かる。
「半だよ、吉原の旦那」
「うん。そうだね」
男たちが口々に文句を言い始めた。親に対してではなく、俺に対してである。全く、賭師の風上にも置いてやれない男共だな。
特に、最後に丁に鞍替えをした男。彼が刀を抜いて文句を言い始めてしまったから、周りもそれにつられて刀を握りはじめている。
「いかさまだ! 賭博場でこんな結果が許されるはずがない!」
「お、落ち着きな、楠木の旦那」
楠木。
「おい、表に出ろ吉原!」
「楠木の旦那、いかさまだと思うなら調べてくれて構わねぇから」
親が楠木の肩を押さえてサイコロを差し出すが、楠木は見向きもしない。俺はそれを眺めてから息を吐いて立ち上がった。
探す手間が省けた。
「大丈夫だよ、任せて」
「だが、吉原の旦那」
「そのサイコロ、今夜中に吉原の華宮まで届けてくれるかい? 俺の名を出せば通して貰えるから」
「あ、あぁ。それは勿論」
俺は出していた全財産を懐にしまうと、立ち上がった。まさか探さなくても出会えるなんて思わなかった。何て運が良いんだろう。
楠木が俺の肩を押すので、俺はゆっくりと表に出て行った。