キミが刀を紅くした
中村椿
真っ赤な椿の花が描かれた着物は私の名にちなんで母が買ってくれたものだった。帯は父が、そして簪はある少年がくれたもの。
紅色に囲まれて暮らす私には、紅椿と言う名の暗殺集団がお似合いだと誰かが言った。そしてその名は紅椿の為にあると仰った。
「宗柄さん、それでどうなさるんですか。元気になってしまわれたからには何か行動しなければいけないのではないですか?」
「元気になってしまわれたって、俺はずっと元気だったんだけど」
「でもそういう事になっていたのでしょう? 怪我をしているから動く事が出来ないって」
「……お前はいつも何処からその情報を仕入れてくるんだ。これは土方と吉原しか知らねぇのに」
つまりはそのどちらかから聞いた訳です。事柄を絶対秘密にしたいのであれば、誰にも言わないに限ります。信じてはいけない。
人の口は閉じっぱなしにはならないのですから。残念ですけど。
「宗柄さんは瀬川村崎殿を殺すのですか? でなければ……」
「物騒な事を言うんじゃねぇよ。村崎は殺さないし、俺も死なないつもりだ。一応考えてるんだぜ」
彼の場合は、きっと。
殺さないのではなくて殺せないのだと思う。無情な彼がこんなにも色を出しているのだから。
瀬川殿は凄い人なのでしょう。
「誰に言われても村崎は殺さないぜ。例え俺が死んだってな」
死んだら人は護れない。昔にそう教えてくれたのは彼なのに。宗柄さんは何一つ分かっていない。
だからこそ、彼は紅椿なんて時代に似合わないものを作り出せたのかもしれないけれど。
「では何かあるんですよね。ここにいらしたって事は、何か策が」
「まあな。お前は口が堅いだろ」
「ですが、秘密ごとは嫌いです」
「まあそう言うな。ちょっと嘘をついてもらうだけでいいんだ」
「嘘も嫌いですよ」
だけれど、私はきっと宗柄さんの頼みを聞かなければならない。それが紅椿の為になるのなら。
拒否なんて論外。