キミが刀を紅くした
宗柄さんは黙って茶を飲んだ。ここは旅館の玄関だから本来座り込んで話す場所でもないのだけれど、紅椿の面々はよく花簪を入ってすぐの所で留まってしまう。
私は彼の斜め横に膝をつきながらその様子を伺っていた。旅館の事は他の人がしてくれる。若女将とは名ばかりの看板娘だから。
「宗柄さん」
「なんだ」
「何ですか、そのついてもらいたいって言う嘘の内容は」
「聞いてくれるのか」
きっと彼は私が言い出すまで居座るつもりだったに違いない。そう思いながらも聞いてしまったのは誰でもない私なのだけれど。
宗柄さんは茶を平らげた。
そうして秘密事の内容を私に告げる。その姿だけを見れば、彼はただの鍛冶屋ではない。その姿はまさに策略家。暗殺団の頭。
私はその内容に不安を覚えつつも嘘をつく事を承諾した。だが、どうも納得しえない策である。
「上手くいきますか? 瀬川殿は正義を唱える人なのでしょう」
「俺はそれ以外にあいつを生かしておく方法が思いつかねぇ。不本意だが慶喜殿に頼るしかない」
「分かりました。なら従います」
「あぁ。頼む」
彼は立ち上がる。私はその瞬間に考えた。一瞬たりとも気を抜かない彼の死に様はどんなものか。
殺されるのではないだろう。彼は強いから。人を護って死ぬなんて綺麗な死に方でもないはずだ。
彼は本物の人斬りなのだから。
「中村」
「はい。何か?」
「外で本物が待ってるぜ」
彼はそう言って勝手に戸を開けて夜の街へ消えていった。私はそれを見送る為に外に出て、気がつく。『本物』と呼ばれた人に。
「もしかして半助さん?」
「椿」
「お入りになってくださいな」