キミが刀を紅くした

 黒い装束に身を包んだ彼は、確かに本物の暗殺者だった。代々徳川に仕える忍。名は服部半助。

 だけれど彼はまだ子ども。本物と呼ぶのは少しだけ気が引ける。まあ彼も一応紅椿の一員だけど。



「どうなさったんですか」


「紅椿の正体を知ってるって男が居て、それが頓所に居るらしい。椿にこれを伝えろって言われた」


「誰にです?」


「土方と沖田に」


「その御方は、瀬川村崎と言う名前ではありませんでしたか?」



 彼はすぐに頷いた。

 つまり瀬川殿は頓所に駆け込んだのだ。宗柄さんを捕らえる為にか、紅椿を炙り出す為にか。

 宗柄さんは彼を護ろうとしているだけなのに。それも知らず。皮肉にも彼は動き出してしまった。



「分かりました。それは私が何とかします。あぁ半助さんにお願いがあるんですが、良いですか?」


「何だ」


「私が丑松さんを探していたと、島原で噂を流してください。その際、宗柄さんが消えたと私が言っていたとも言ってください」


「分かった」


「丑松さんは多分、華宮太夫の所にいるんじゃないでしょうか。随分前ですがいらっしゃったので」


「流してくる」



 彼が外に出たので、私も一緒に花簪を出る。どうせ居てもいなくても同じ女将なのだから、今は紅椿の為に動いても良いだろう。

 半助さんは不思議そうに私を見ていたけれど、何も口にはしないでいた。私が笑むと、彼は頷いて夜の闇に消えていく。


 私はそれを確認してから、急いである場所に向かった。それは、宗柄さんの言った嘘を確実に実行する為に必要なことである。


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