キミが刀を紅くした
紅椿は私の居場所である。花簪で跳ね除けられてしまった今、私が本当に帰れる場所はあそこしかなくなってしまったのだ。
私がもっと利口で経営術もしっかり両親から学んでいれば、私が花簪を護れたのだけれど。残念ながら花簪は奪われてしまった。
私はただ、そこで働かせて貰っている人に過ぎない。あそこを追い出されれば私の家はないのだ。
「失礼します。花簪の中村と申す者で御座いますが、失せ人がおりまして。探して頂きたく参らせていただいた次第で御座います」
「夜中にご苦労様です。それで、その方のお名前は?」
「大和屋宗柄殿です」
新撰組の頓所でその名を告げると、奥の方から人が飛び出して来た。それが総司さんだと言う事はすぐに理解する事が出来た。
彼は私に頭を下げる。
「何事ですか」
「あぁ、はい。こちらの方が大和屋宗柄を探してらっしゃって」
「探してるって事は、居なくなったんですね? 違いないですか」
「はい」
総司さんは大声で歳三さんを呼んだ。彼はいつにもまして忙しそうに奥から出てくる。副長だからかと思ったけど、違うみたいだ。
今日は瀬川さんも一緒だ。
「土方さん、大和屋が消えたと」
総司さんのその言葉に、歳三さんは舌打ちをした。瀬川さんの訴えはこの二人が何とかしようとしていたに違いない。
だけれど、それはもう不要だ。
「貴方は確か」
「花簪の中村椿で御座います。瀬川村崎殿、でしたね。最近は良くお目に掛からせて頂いてます」
「こちらこそ」
新撰組の裏切り者事件があったのにも関わらず、彼はよく紅椿の一件をここに報告出来たものだ。
私なら直接奉行所か御上の方へ報告する所だけど。何せ、ここには裏切り者がいるのだから。