キミが刀を紅くした

 瀬川村崎が紅椿の容疑者として捕らえられた。それは世間にも誠の面々にも知られる事はなく。

 事実は闇に葬られて彼は獄と呼ばれる場所に入れられた。それは私と丑松さんが虚偽を言ったからでもある。だけれど、仕方ない。


 人斬りである私たちには嘘も生きる為の術。そうして、これは宗柄さんの言っていた策の為だ。



「一応、事情聴取は終わりだ。長い間ご苦労様。中村は残れ、まだ話があるからな。吉原、お前も残りたければ残ればいいが」


「残るよ。俺も聞きたい」



 頓所の一室で、私は歳三さんと丑松さんを前にしていた。瀬川さんの件の取調べが終わった所だ。

 私はまず、今回の件は宗柄さんに言われた事だと彼らに告げた。やっぱりそうか、と勘の鋭い歳三さんはただため息を吐く。



「椿、宗柄は今何処に?」


「存じません。しかし、鍛冶屋にでもいらっしゃると思いますよ。私が言われたのは、彼が消えたと嘘をついて欲しいとの事と……」


「瀬川を捕らえる?」


「いいえ。彼を動けない様にしてくれと言われたんです。宗柄さんは瀬川さんを慶喜殿へ会わせようとしていらっしゃるんですよ」



 誰がその大役を授かるかは知らない。私はただ、宗柄さんの言う通りに事を実行しただけなのだ。



「俺は宗柄が無事なら良いよ」


「会わせるって言ったって、どうする気だ。瀬川の件に関しては完全に俺たちが悪い。冤罪だぞ」


「それは宗柄さんにお伺いしないと分かりません――が。瀬川さんには捕らえられても仕方がない理由がありますから。大丈夫です」



 随分と前から噂だった一人の武士の話。戦場に出かけては誰かれ構わず斬っていく究極の人斬り。大将首は決して取らない。ただ戦を荒らしていく、戦場の亡霊。


 宗柄さんに話を聞くまではそれが誰かは知らなかった。彼は噂の事を知らなくて、私は瀬川さんの事を知らなかったものだから。


< 58 / 331 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop