キミが刀を紅くした

 私が宗柄さんは瀬川さんの事を殺せないと思った理由は二つ。

 一つ、瀬川さんは宗柄さんが唯一名前で呼ぶ人だから。瀬川さんがどう思っているかは知らないけれど。少なくとも、宗柄さんは大切な人だと思っているはずだ。

 自分以外に無頓着な彼が瀬川さんの事になると慌てふためく姿はまさにその証拠と言えよう。


 二つ、瀬川さんが強いから。実際目にした事はないけれど、それはもう桁外れに強いに違いない。


 村崎は戦場に何度行ったか分からない、と宗柄さんも仰っていたから。彼はそれでも目立った怪我なく生きている。強いはずだ。

 彼が刀を握った様子を想像すると、とても怖い気分になる。だけど彼が追い求めているのは正義。

 私たちただの人斬りとは違う。


 戦場の亡霊、またの名を世荒らし。その名を自分のものにするのに瀬川さんなら差ほど、時間もかからなかったに違いない。



「捕らえられても仕方ない理由って何だい? 彼はそんなに凶悪な人には見えないんだけどね」


「私も最初は驚きました」


「何だ、その理由って」


「噂を御存じないですか?」


「何の噂だ」


「世荒らし」


「あぁ、戦に出向いて見境なく人を斬っていくって言う武士の?」


「そう」


「それが何だ。まさか瀬川がその世荒らしだと言うんじゃないだろうな。あいつは確かに武士だが、そんな人斬りには見えないぞ」


「俺もそう思うよ椿」



 私は息を吸った。


< 59 / 331 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop