キミが刀を紅くした
「でも彼は世荒らしですよ」
「まさか」
「ですから、彼が自らこの事を問題にする事はまずないでしょう。調べ上げられて困るのは彼です」
私は二人にそう言った。
だけれど、少しばかり心に引っかかるものがある。紅椿の事だ。
瀬川さんは紅椿を完全な悪として認識しているらしい。世間もそう感じている。そうして、私たち紅椿は世荒らしを悪だと言っているのだ。勿論、その意見は世間も同意しているに違いない。
さて、果たしてどちらが本物の悪人なのか。どちらも人斬り、それに恨まれても仕方がない、エゴの塊だけで人を殺している。
「まあ、世間の事は俺と総司が何とかするが。問題は大和屋の事だな。あいつはいつ動くんだ」
「すぐだとは思いますが」
詳しくは聞いていない。それを聞く前に彼は行ってしまった。そんな事を考えていると、ふと、丑松さんが疑問を口にした。
「それって本当に賭けだよね。もしも村崎殿を慶喜殿に会わせるのに失敗したらどうなるんだい?」
「瀬川は当然、殺さなければならないな。紅椿が殺すか、それとも世荒らしとして世間が殺すか」
「俺たちは?」
「知るか。大和屋が生きてるならあいつが全て決めるだろうよ。何せ統治者だからな、俺たちの」
私たちは言われた通りに知らない人を斬ってきただけ。対して瀬川さんは意志を持って、己の目的を果たす為に人を斬ってきた。
人らしいのは瀬川殿だ。
「一週間が限度だぞ。それ以上拘留すると幾ら何でも隊士に怪しまれてばれちまう。そうなると正当な理由が必要になるからな」
「はい」
「トシ、そればかりは椿に言っても仕方ないよ。宗柄が全部、指揮を取ってるんだから」
「分かってる。だがあいつがいない今、中村にしか言う奴がいないだろうが。言わないよりは、な」
紅椿に意志はない。そう考えると私たちは、紅椿に操られる人形の様に思えて仕方がない。
人を殺す意志を持つ者。
人を殺す事に躊躇しない者。
私には分からない。どちらが本物の悪かどちらが本物の悪人か。
(00:中村椿 終)