キミが刀を紅くした

 俺が屋根を歩く足音に続いて、彼の足音が耳に聞こえる。それだけを頼りに俺は彼を誘導した。

 主がいる京のとある屋敷の前に着くと、俺は振り返り彼の様子を伺った。瀬川は屋敷を見上げてから俺に説明を求めている。



「ここに、大和屋が?」


「それと主が」


「主? きみの主がここに?」



 俺が頷いて戸を開けたが、瀬川は気後れした様に動かない。何と声をかければ良いのか。

 そんな時、奥から男が現れた。その男は俺と瀬川を見て、廊下のど真ん中で立ち止まってしまう。



「……大和屋」



 瀬川は一歩踏み出した。だけれど、大和屋の方は目を逸らして俺を見る。連れて来いと言ったのは彼なのに。目も合わせない。

 度胸のない男。瀬川に限りか。



「早かったな、服部」


「連れて来た」


「見りゃ分かるよ。慶喜殿は例の部屋にいるから、会わせてくれ」


「お前は」


「後で、行く。必ず」



 声に覇気がない。俺は仕方なく頷いて瀬川を屋敷に招いた。彼は大和屋を眺めながら足を進めた。


 二人は友人だと聞いている。その関係は紅椿によって絶たれたとも聞いた。大和屋はあれだけ瀬川の事を気にかけていたのに。

 いざ出会えばこれだ。

 嫌われるのが怖いに違いない。少し前に土方が大和屋からそんな情けない台詞を聞いたと言った。



「ここは誰の屋敷なんだ?」



 瀬川が質問をした時、俺は屋敷の戸をしっかりと閉めていた。何があっても逃げられない様にだ。



「我が主徳川慶喜様のお屋敷だ」


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