キミが刀を紅くした
大和屋はまず、幕府には裏からそれを護る者が必要だと言った。倒幕の輩を相手にするには、表から見ているだけでは間に合わないと、唐突に告げたのだった。
彼は暗殺集団を作らないかと主に問いかけたのだ。それは徳川に仇を成す者を影で始末する、と言う奴ら。主はそれに頷いた。
その後俺が独断で大和屋を調べた所、彼が街の一鍛冶屋で、大きな事件に関与している事が分かったのだ。これは主には秘密だが。
「紅椿は俺と宗柄が創設した、幕府を護るためのものだ。言い方を代えれば……殺しを、自らのエゴで正当化している集団だ」
俺がまだ十にも満たない頃、その事件は起きた。長い歴史を考えると大した事件じゃないのかもしれない。だがその事件は人から三日千人事件と呼ばれていた。
呼び名の通り、三日で千人の命が失われたからである……それも名の知れぬ二人の男によって。
「戦場に大将を守る将がいるように、今の徳川には紅椿が必要なのだよ。この大和屋宗柄という男が俺にも時代にも必要なのだ」
二人の男のうち一人は分かっていた。今も世を騒がせている世荒らし……瀬川村崎の事である。もう一人は世間的にも謎であった。世荒らしの仲間だとも言われていたが、現れたのは三日千人事件の一度だけ。探索も希薄であった。
だが、その男は両刃刀を持っていた。漆黒の刀身に煌めく銀の刃は、今は忘れ去られたもう一人の唯一の手掛かりだったのだ。
「俺は彼らに幾度も救われているんだ。事ある毎に狙われてしまう身なんでな。彼らが居なければとうに死んでいたに違いない」
俺が初めて大和屋の鍛冶屋を訪れた時、奴はその両刃の刀を打っていた。誰の刀かと問うと、大和屋はそれを自分のだと言う。
世荒らしに隠れた三日千人事件の立役者はここに居るのだ。数多の命を斬り、三日にして大罪を背負った男。それが紅椿の統治者。大和屋宗柄なのである。
それも窮地に陥った世荒らしを救うためだった様に思えるが。
「倒幕を企む輩は山といる。新撰組だけではとても手に負えない」
大和屋は自らの大罪を、幕府の役に立つ「紅椿」と言う集団犯罪に置き換える事で大罪を世間の記憶から消そうとしているのだ。