キミが刀を紅くした
「……ここまでで、取り敢えず紅椿の存在価値は分かってもらえたかな。何か問いたい事はあるか」
主が一息つくと瀬川がもう一度頭を下げた。それを見かねたのは大和屋である。彼は何をするでもなくただ顔を背けるだけだった。
「御畏れながら、幕府を守る組織であるなら新撰組と同様に公にすれば……そうすれば紅椿は悪とは呼ばれないのではないですか?」
「確かにな」
「俺は……私は紅椿を悪だと思っておりました。ですが真実は御上をお守りする正当な組織」
いいや。それは違う。
本当に正当な組織なら創立した時点で世に公表されている。正当ではないから今の状態なのだ。
「何故に公にしないのですか」
勿論、それらはすべて徳川幕府の安寧の為に決まっている。俺の主にはそれが全てなのだ。
口ごもってしまった主の代わりに、大和屋が口を開いた。ただし暫くの沈黙を作ってからだ。
「俺が頼んだんだ。慶喜殿に要らねぇ手間を取らせないように」
「……その結果として、自分が悪人になるのは承知していたか?」
「無論。そうなってでも、俺には守らなきゃならねぇもんがある」
真実はそうじゃない。大和屋には己が為に紅椿を隠す理由がないじゃないか。気付かないのか。
全てはこの徳川の為にある。
紅椿は利用するだけ利用されて危なくなったら切り捨てられる捨て駒に過ぎないのだぞ。バカな男だらけだ。瀬川も大和屋も。
切り捨てる為に悪でいるのだ。いつでも処罰を与えられる様に、紅椿が公になった時、幕府が鉄槌を下して徳川の株を上げる為に。
「村崎、主も紅椿に入らないか」
主は呟く様にそう言った。これはきっと、大和屋が考えていた未来とは違うのだろう。彼は目を丸くして主をじっと見ていた。
それは驚きと言うより、怒り。