キミが刀を紅くした
「この慶喜の為に力を貸してくれないか、村崎。この国を護るための力がお主にはあるだろう」
「……勿体ない、お言葉です」
「急ぎ答えを出す必要はない。だが考えて欲しい。国の為に、友人の為に主自身が出来ることを」
主の言葉に大和屋が身を乗り出した。鋭い目には怒りが隠る。
「慶喜殿、それは意に反する」
「黙ってなさい宗柄」
「だが、だが村崎は――」
「半助」
俺は大和屋の傍へ行き、片腕を彼の前に差し出した。大和屋は次第に大人しくなった。だが。
だが彼は、違う未来になった事が悔しいのか……血が滲む程に己の唇を噛み締めていた。
「慶喜殿……お時間を頂く必要はありません。この国に生きる民として、私には貴方様にお力添えをする義務がありますよって」
「そうか、では」
「紅椿に参入させて頂きます」
瀬川の言葉に主が満足そうに頷いた。端で見る俺には彼らの位の差がはっきりと目に見えている。
大和屋が言っていた、主に逆らえる人がいるならば会ってみたいと。残念ながらそれほどまでに民と主には当然の距離があるのだ。
「全ての事情は宗柄に聞くと良いだろう。私からは後日、改めて紅の椿を送るとするよ」
「……光栄の至りで御座います」
瀬川が深く頭を下げた。同時に大和屋も彼に倣う。俺はその様子を見てから立ち上がった。
主が先に立ち上がり、部屋を出ていく。その間二人の頭は下がったままだ。俺は戸を開けていつものように主が歩く道を作った。
「半助、二人の様子をしかと見ておきなさい。特に、村崎をね」
「御意」
主はその言葉を残して奥へ消えてしまった。俺は部屋へ戻り、二人の隅の方で様子を伺う。
だが黙ったままである。
「……あの、む、村崎」
「なんだ」
「ごめん。詫びても、足りねぇとは思うが……本当に悪かった」