キミが刀を紅くした
「本当に足りないな」
「どうすりゃいい」
「知るか。自分で考えろ」
瀬川はため息と共に立ち上がった。まるで何かを諦めたような顔である。大和屋は座ったままだ。
「全く、情けねぇ」
大和屋は崩れる様に倒れ込み、何度か畳を拳で殴り付けた。俺は窓から瀬川を確認する。
数秒してからようやく瀬川が玄関から出てきた。俯いたままだ。
「……大和屋、良いのか。瀬川をこのまま帰らせても。このまま、お前と主の紅椿に入れても」
「忍風情が生意気に」
「俺の方がまだ判断能力がある」
「……村崎は?」
「下に居る。もう帰る所だ」
大和屋は腕の力で勢いよく立ち上がると窓から外へ飛び出した。足を捻るくらいはしたかもしれない。だが痛む様子はなかった。
俺は窓から下を見下ろす。
「……せ……してる」
「お前は……も……」
「……でも……は……」
「……うるさ……れ」
「……守りたかった……」
唯一聞こえた大和屋のその言葉は、到底叶わない願いだった。何を守りたかったにしても幕府の犬に成り下がってしまった奴には。
何も護れない。
「半助、二人は帰ったのか」
「まだ玄関に居ます」
「そうか。それで、感想は?」
「志が非常に、高い」
「……愚かとは言わんのか?」
主はにっこりと笑った。この人は全てを知っているのだ。だから俺は一生付いていくと決めた。紅椿が始まるずっと前から。
「愚か、です。とても」
(00:服部半助 終)