キミが刀を紅くした
とんでもない場所に来てしまったとは、何度だって後悔した。だが今の俺は土方さんの言う通り後悔よりも覚悟すべきである。
「ところで、紅椿とは具体的にどう言う事をするんですか?」
「どう、と言われてもな」
「慶喜殿か大和屋の旦那にお聞きにならなかったんですか?」
「何も聞いてません」
土方さんがため息をつく。争うのなら敵をよく知ってからと言うが、俺はかなりの準備不足だったらしい。己が事も知らない。
沖田さんが人差し指を立てた。
「まあ、簡単に言うとね。徳川に仇を成す輩を倒すんですよ」
「徳川に仇をなす、とは」
「えぇっと、例えば」
沖田さんはそこで首を傾げた。彼は随分曖昧に紅椿をやっていたらしい。考えた挙句、隣の土方さんに助け舟を求めていた。
土方さんは微かに息を吐く。
「例えば幕府に関係している商人や武士がいるだろ。そいつらの利益を害す事、つまり間接的に幕府の利益を削ぐ奴らの事だな」
「殺せと命が下るのは、倒幕を目論む人とかじゃないんですね」
「たまにはあるがな。そういう浪士は基本的に新撰組が相手をするから、そこは心配するな」
「……そうですか」
刀の腕は関係ないのだろうか。だから旅館の女将である中村殿も紅椿に入っているのか。いや、彼女も実は強いのかも知れない。
開きっ放しの襖から、風に乗って椿の花びらが入ってきた。赤い花びらである。それを拾った俺を見て、沖田さんがくすりと笑う。
「まあ心配はいりませんよ。俺と土方さんは二足の草鞋を履いてるんで、助け舟は出しますから」
「大丈夫、なんですか? 新撰組の人が……幾ら慶喜殿を裏から支える為だと言っても暗殺なんて」
「お前が心配することじゃない」
土方さんはそう言って立ち上がる。そして部屋から出て行ってしまった。俺は息を吐く。
要らぬ心配か。