キミが刀を紅くした

「まあ気楽に考えれば良いんですよ。まずは自分が死ない為の道を考えれば良い。まあ瀬川の兄さんには無駄な助言ですがね」


「いや。背が押された様です。沖田さんの言う通り自分の身はまあ一番に護るべきですしね」



 俺はふと椿の花びらに目を落とした。人を殺して行く人生。土方さんが言った様に、決して後戻りが出来ない場所に来てしまった。

 運命は残酷とよく言うが。本当に残酷なのは運命ではなく、その道を選んだ自分だと思う。俺は死を持って拒否する事もできた。



「瀬川の兄さん。もしお暇なら他の面々に挨拶回りでもしたらどうです? 案内しますよ」


「あぁ、うん。そうしようかな。じゃあお願いします沖田さん」



 彼はにこりと笑んで立ち上がった。俺はそれに続き静かに屯所から出て行く。彼の申し出は丁度良かったかも知れない。一人で家に隠りたくはないし、それに丑松殿に借りた金を返さねばならない。

 沖田さんは先ず「吉原の旦那に会いに行きましょう」と言う。向かうのはもちろん花街島原だ。

 昼間だと言うのに街は華を失っていなかった。どこか入り辛い表立ちの店ばかりなのに人足が絶えないのは、一つに女たちのやり方が上手いからだろう。感心する。



「瀬川の兄さん。何だか上京してすぐの御方みたいですよ。もしや島原は初めてですか?」


「まあそんなところです」


「安心なさって下さい。俺も、吉原の旦那に呼ばれて良く歩きはしますが、屋敷の中には一歩だって足を入れた事はないんです。まあ土方さんはどうか知れないが」


「そうでしたか」


「へぇ。あ、吉原の旦那!」



 沖田さんは大手を振って遠くを歩く派手な着物を召した男を呼んだ。男は軽く手を挙げて、ちょいちょいと手招きをする。俺と沖田さんはそれに誘われるがまま、男の……丑松殿の方へ歩いた。

 彼は片腕だけを袖に通した格好でとある屋敷の前に立っていた。本当に様になる姿である。



「村崎殿、その節は本当に申し訳なかった。紅椿を隠す為とは言え俺は虚偽を働いてしまったしね」


「いえ。事情は慶喜殿に伺いましたし、俺は貴方に借りがある。団子の代金をお返ししますよ」


「あぁ構わないって言ったのに」

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