キミが刀を紅くした

 丑松殿はそう言ったが、俺は首を振る。そうして彼の空いている手に銭を握らせた。丑松殿はただ無意識に眉を下げるだけである。



「お二人が知り合いなら話は早いんじゃないですか? 吉原の兄さん。彼が七人目の反逆者ですよ」


「あぁ、じゃあ宗柄は彼を入れるが為に俺と椿を使ったのか。成功したみたいで何よりだよ」



 丑松殿は驚く様子も見せず、俺に握手を求めてきた。だが沖田さんは首を振った。俺は何に対してそれをしているのか分からず、密かに彼を伺うしかなかった。

 握手を終えた丑松殿は両手を着物の裾に入れ込んで、歩き出してしまった。俺と沖田さんはそれに続いてまた歩いていく。



「今回、大和屋の旦那の策ってのは――本当に瀬川の兄さんを入れる為の事だったんですかねぇ」


「何だい、何か疑問みたいだね」


「回りくどいと思いましてね。瀬川の兄さんを入れたいだけなら他に方法があったと思うんですよ」


「まあ宗柄の考えることなんて俺たちに分かったもんじゃないよ。それよりも村崎殿、そんな所に突っ立ってないでおいでよ」



 不意に投げかけられた言葉に、俺は少しだけ驚いた。いつの間にか島原を抜けて旅館花簪の前にたどり着いていたのだ。中村殿が戸を開けて首を傾げている。

 俺は急ぎ足で旅館の中に入り、段に座っている丑松殿と沖田さんを眺めた。俺からしたら彼らの思考の方が全く読めない。



「瀬川さん、先日はご無礼を」


「いいえ、構いません。丑松殿にも言いましたが、もう済んだ事ですから。気にしていませんよ」


「紅椿に御参入されるそうで、よろしければ休憩の際は花簪に寄って下さいな。此処は紅椿の溜まり場みたいになっていますので」



 笑顔で言った彼女だが良いのだろうか。紅椿の溜まり場だなんて歴史ある京旅館が……だが女将が言うのだから良いのだろうな。

 彼女はやや場を離れてから、茶を三つ汲んでまた戻ってきた。そして、笑顔で言うのだった。


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