キミが刀を紅くした
ここに来るのは久しぶりだったがその風貌は何一つ変わっていなかった。煙管のせいで煙たい部屋も鍛冶の炎しか灯りがない所も、全てが同じであった。
ただ一つ、男が鎚を握っていたのは珍しいと思った。俺は彼の仕事振りを真面目に見た事がない。
「こんにちは大和屋の旦那」
「沖田、と村崎?」
「そうです。ちょいとお尋ねしたい事がありまして伺いました」
沖田さんはずかずかと足を進めると、大和屋の傍に腰を下ろしてしまった。近くは暑いだろうに。
俺は少し離れた場所、いつも大和屋が休憩している場所に腰を下ろし彼に軽く手を挙げる。
「あ。そういえば村崎、刀――出来てるぜ。持って帰れるか?」
「あぁ、預けっ放しだったな。悪いけどもう二、三日預かっててくれないか。今日は持ち合わせが少なくて代金を払えそうにない」
「金はいらねぇ。今回の件の、つまり、紅椿に巻き込んだ詫びだ」
「そんな詫びはいらない。金は払うし、今は持って帰れない。お前もそれで飯食ってるんだからちゃんと商売しろよ。分かったか」
大和屋は鎚を止めてから頷く。その姿を見ていた沖田さんは突然に笑い出した。大和屋はそれが気に入らなかったのかどうかは知らないが、彼に向けて鎚を投げる。
それは、危ない。
「うわっちょっと、勘弁して下さいよ大和屋の旦那。仲良いなあって思っただけじゃないですか」
「うるせぇよ。それより何だ。俺に用があったんじゃねぇのか」
「あぁ、そうでしたそうでした」
けらけらと笑っていた沖田さんは唐突にその笑いを止めた。空気ががらりと変わった気がする。
不思議な若者だ。
「紅椿の誰かさんが捕まったって椿の姉さんが言ってたんですが。何か知ってるかと思いまして」
「あぁ、その事か」
やはり彼は知っているらしい。
俺と沖田さんは視線を交わしてため息をついた。全ては紅椿の統治者の差し金だったのだから。