キミが刀を紅くした

鍛冶屋の困り事


 大事な者を護りたいと思う事。それほど意味の分からない事はない。失くしたくないと思う事ほど歯がゆい事は、この世にはない。

 少なくとも俺はそう思う。



「じゃあ、瀬川の兄さんにも紅椿が届いたんですか。ついに」


「あぁ」



 見回り途中の癖にふらりと鍛冶屋へ足を踏み入れる男を一度だけ盗み見て、俺は鎚を振り上げた。

 かん、と音がする。

 久しぶりに自分の刀を打ってみようと熱したが、久しぶり過ぎて刀の感覚が掴めずにいた。



「西崎と言えば、島原に良く出入りしてるって聞きますけどね。あの男、連れがいたんですか」


「それもたいそうな美人らしい」


「もう見に行ったんで?」


「いや。中村に聞いた。花簪で働いている女と仲が良かったらしいんだ。だから中村と吉原に文がいかなかったんだろうけどな」



 沖田は砂糖菓子を左右の頬で移動させながら遊んでいた。そして俺が刀を打つ姿を見ている。まるで景色でも見ているかの様にだ。

 攘夷に関係があると言う事で、沖田土方の二人にも文は送られなかった。慶喜殿はチャンスだとか思ったのかもしれない。村崎を試す良い機会。俺は監視役だろう。



「ねぇ大和屋の旦那」


「何だよ」


「つまらない事を聞きますが、その両刃刀。何処で手に入れたんですか? 随分、黒いですね」


「随分黒い? 見たままの事を言うな。本当につまらねぇ事だな」


「だから先に言ったでしょう。で何処で手に入れたんですって?」



 子どもの好奇心は時に乱暴だ。答えなければ許してもらえないだろう。俺は鎚を持つ手を緩めた。


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