キミが刀を紅くした

「これは俺の祖父が打った刀だ。黒いのは素材が違うから。両刃刀にするには鉄は弱すぎるんだよ」


「それが貴方の刀ですか」


「まあ、そうだな。それが何だ」


「いえいえ。黒刀の伝説を昔に誰かから聞いた事があったので、もしかしてその刀かな、と疑っただけです。どうやら違う様ですね」


「くだらねぇ」


「まぁでも、そのお陰で大和屋の旦那が初めてちゃんとした鍛冶屋に見えましたから。よかった」


「何がよかった、だ」



 散々人の仕事場を覗いておいて言う事はそれだけか。俺は再び漆黒の両刃刀を打ち始めた。

 口の中の砂糖菓子が消えたらしい。沖田は次に適当なリズムで口笛を吹き始めた。暇な奴だ。



「お前見回りは?」


「ご心配には及びません。俺の見回り時間は当に過ぎてますから」


「なら頓所に帰れよ」


「そうですね。聞きたい事は一応聞けたので満足してますから。それに、お客さんも来たみたいですし。じゃあ、帰ります」



 自由にも程がある。だが帰るのなら引き止める理由はない。何を聞きに来たのかは知らないが、沖田の動向なんて俺にはどうでも良い事だった。心底興味がない。

 ひらひらと手を振って出て行く沖田に変わって、彼の言った通り客らしき男が入ってきた。

 一瞬、吉原が来たのかと思ったが。どうやら違うらしい。ひょろりとした風貌が似ていただけで、後は全然似ていない。あぁ立ち居振る舞いは少しだけ似ているか。



「客なら入れ。遠慮は要らねぇ」


「……鍛冶の客ではない。だが入らせて貰っても良いだろうか」


「構わねぇよ。さっきも鍛冶の客じゃねぇ男が雑談しに来てた」



 男はくすりと笑った。

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