キミが刀を紅くした
刹那、俺は奴の懐に入り込んで刀を折ってやった。錆びたぼろ刀は簡単に二つになり、からんと切っ先を地面に落とした。
怖面の男が雄叫びにも似た声を上げる。辺りの注目は一糸に男の方へ集まった。奴は残った刀を投げ捨てると、俺に飛びかかってくる。女かキャアと悲鳴をあげた。
「大丈夫かい、京さん」
「だ、大丈夫です。ありがとう」
「全く、まだ日も沈まないうちから騒がしい奴も居たもんだねぇ」
飛び掛かってきた男をひょいと避けたのと同時に、太刀が飛んで来た。いや、刀ではないか。小刀を手に持つ細身の男は、まるで俺を見ていなかった。その隙に不愉快な男が俺を殴ってきやがった。
何で俺ばかりがやられなきゃならねぇんだ、と腹が立って来たので男を蹴飛ばした。輩はのびた。そして小刀の男には……。
「吉原か」
殴ろうとした時に派手な着物が目に入ったが、俺は手を止めずに奴を殴った。俺の声に気付いた吉原は声を上げて小刀をしまう。
「宗柄じゃないか。何だ!」
俺が殴ったせいで口が切れたらしい。女たちが心配して駆け寄っていた。観衆は吉原が現れた辺りで消えてしまっている。番人に目を付けられたくないのだろう。
吉原は女たちに平気だと嘘ぶりながら立ち上がると、俺を見る。何だか文句を言いたげな顔だ。
「俺の攻撃を避けたから、やり手だなあとは思ってたんだけど。本気で殴る事はないじゃないか」
「本気じゃねぇよ」
「まあ何だい、結果良ければってやつだね。俺はこの男を探してたからちょうど良かったんだ」
ありがとう、と彼は言い先程の輩を女に回収させた。遊女とは違う――例の自警団だろう。名前は忘れたがそんなのが居たはずだ。
俺は吉原の去る姿を見て一つ思い出した。あいつに聞けば良いのか、華宮太夫とやらの屋敷を。
「吉原」
「なんだい?」
「華宮太夫の屋敷はどれだ」
「華さんの屋敷は一番大きい所だね。今は客が見えてると思うよ。待つのなら……悪いけど京さん。案内してやってくれる?」
派手じゃない女は頷いた。