キミが刀を紅くした
「大和屋、何で華岬に」
「華岬?」
「この屋敷の名前だよ。そんな事も知らないで一体何してるんだ」
先に言われてしまった。俺は何をしているのか考えた。そうだ、華宮太夫の所で膳運びをしている露子と言う女を探しに来たのだ。
それが華宮太夫に会いたい奴の様に扱われ、今は何故か西崎龍之介の調査をしていた。村崎に何て説明すれば良いのだろうか。
「まあいいよ。それより道さん、あの人は大丈夫なんですか?」
「あぁ、大丈夫ですよ。瀬川さんには本当に色々御足労をお掛けしてしまって、本当に礼を言っても足りないぐらいだと言ってたわ」
「……あの人って?」
密かに疑問を投げると、村崎は「西崎露子さん」とご丁寧に名字まで教えてくれた。と言うことは此の屋敷にいる露子は西崎の妻で間違いなさそうだ。あぁ、もう。
どうするかな。
「村崎、お前……」
「瀬川さん、是非に露子の顔を見てやって下さいな。あの子も喜びます故に、どうか是非」
「えぇ。そうさせてもらいます」
ふらりと簡単に奥へ消えた村崎を見ながら、俺はゆっくりと息をはく。村崎と西崎露子の関係が。
今から殺しに行く風ではない。
まさか殺らないつもりか? それとも偶然の出来事に嵌まり込んで出れなくなっただけか?
「なあ、村崎は露子さんとやらに何をしたんだ? 普通ならあんな裏側にはいけないだろ?」
「彼は此処で働いてる子を助けてくれたんですよ。町外れまで出掛けた帰りに盗人に襲われてしまったらしくて、その時にね」
偶然、それを生かして村崎が西崎露子に接触している事を願うしかない。情なんて移ってちゃ洒落にもなりゃしねぇぞ。
あぁ、やりにくくなった。
「大和屋の旦那、お待たせ致しました。御上がりください。華宮がお相手つかまつります故に」
案内の女が声色を変えて微笑んだので、俺は立ち上がってその女に着いて二階への階段を上った。