キミが刀を紅くした
部屋の先に居た華宮太夫は俺を見て商売の笑みを浮かべた。案内の女はいつの間にか消えていたので、俺は部屋に足を踏み入れて割りにゆっくりと襖を閉める。
「あら、この屋敷に御出になるのは初めてですね。私、太夫の華宮と申します。以後どうぞよしなにして下さいませ、旦那」
「アンタが華宮さんか」
別に彼女に会いに来た訳ではないが相手も仕事である。俺は島原の相場が分からないがその時に適当な金額を払っておいた。
多かったのかも知れない。華宮は目を丸くして受け取るのを躊躇していた。俺は金を受けてすぐ羽織を脱いだ華宮を見た。
艶かしい、が合っている。
「あぁ、いや脱ぐな。そう言うんじゃねぇよ。俺はただアンタに話が聞きたいだけなんだ」
「話、ですか」
「西崎龍之介が来てたろ」
華宮は黙り込んだ。客の事情は言わないのが規則なのかも知れない。だがこっちも聞かなければ何とも出来ないのだ。俺の事情は知った事じゃねぇだろうがな。
「龍さんなら確かにいらっしゃいましたが、よろしくない事を聞くおつもりでしたら、このお金はお返し致します。良いですか?」
「良いも何も、俺はアンタの商売の時間を貰ってるんだ。返されても受け取れねぇ。小遣いにゃならねぇだろうが、取っとけ」
「しかし」
「答えたくなきゃ答えなくても構わねぇよ。無理に言えとは言わねぇから。金が要らないんなら其処らにばら撒いちまえばいい」
華宮は静かに頷いた。
「最近、西崎は至極頻繁にこの屋敷に通ってるそうじゃねぇか。随分金回りが良いと思うんだが?」
「如何わしい回りだって言うんですか? そんなはずありません。龍さんは幕府のお偉方の屋敷に勤めてなさるんですから」
「なら連れ合いを島原で働かせる謂れはねぇんじゃねぇか?」
「島原で?」
「知らねぇのか。露子って名だ」
「まさか。あの子は沢田さんと」
華宮は口を閉ざしたが何か考えたらしく首を振って話し出した。