キミが刀を紅くした
幕府の犬
西崎龍之介が紅椿により殺された。たが彼が派手に反幕の運動をしていたのは何年も前の事だ。資料には残っているが誰も奴の事など覚えちゃいないだろうに。
だが覚えていたのだ。紅椿の指揮官は米粒ほどの反幕でさえ許さない方だったのだ。酷いものだ。まあこれも保身のためなのだな。
「これで最後です」
「ご苦労さん」
「それにしても大変ですね。土方さんの部屋、始末書だらけだ」
全てが俺の始末書な訳がない。半分は隊士たちからの報告書や始末書だ。つまり半分は俺が片さなければならない物なのだが。
部屋中に積まれた紙は、まさに今の時世が平和でない事を物語っている。誰だ、この世が平和だと言ったのは。とんだ嘘つきめ。
「そう言えば、西崎龍之介の件はどうなってるんだ? 聞き込みは昨日済んだろ。報告書は……」
「あぁ、それでしたら今晩には渡せるはずです。土方さんの予想通りで、大和屋の兄さんは口を割っちゃくれませんでしたよ」
「やっぱりアイツが一枚噛んでそうだな。まあ紅椿が出てきた時点でそうだとは思ってたがな」
だから紙が溜まるのだ。紅椿を何とか誤魔化すために頭を使っていたらこんな事になってしまう。三分もあれば出来る報告書や始末書が今や三十分である。
俺はため息をついて始末書の一枚に手を伸ばした。それが紅椿の件ではない事に安堵する。
「あ、忘れるところでした。ついさっきですが……近藤さん宛に脅迫状が届きましたよ。まあ多分、彼を嫌う浪士からでしょうね」
「近藤さんは何て?」
「土方さんには言うなと」
「じゃあ何で言ったんだ」
「だって言わなきゃ怒るでしょ。じゃあ俺はもう行きますよ、見回りに行かなきゃいけませんから」
頭を下げてさっさと去る様は寝に行きますと言ってるようなものだった。その証拠に大きな欠伸が垣間見えたではないか。
だが眠たくなるのも仕方ない。俺がこんな状態だから誰も休めないのだ。休日を返上する隊士も出てきたから困ったものである。
俺はまずこれ以上事件を増やすまいと近藤さんの部屋へ向かう事にした。脅迫状なんて、くだらないが放ってはおけない。