キミが刀を紅くした
「近藤さん」
例の如く稽古場で隊士たちの様子を見ていた近藤さんは、俺の姿を見てにぃと笑って手を降った。
「トシ、珍しいな。稽古か?」
「いや。近藤さんに話があって来た。今、ちょっと外せますか?」
「おう。俺の部屋で良いか」
俺が文句を言わないのを確認せず彼は歩き出した。俺はただそれに着いて行くしかない。と言っても、俺は別に何処でも良いのだ。
近藤さんの部屋は整理されていないと言う意味で汚かった。だが書類だらけの俺の部屋に比べれば幾分もマシかもしれない。
彼は奥に座るので、俺はその正面に正座した。刀は前に置き一度だけ軽く頭を垂れてから、単刀直入に話を切り出す事にした。
「脅迫状の件、隊士から耳にしたんで心配になって来たんですが」
「何だ。総司の奴、言ったのか」
「……俺が無理に聞いたんです」
「そうか、だが大した事はない。お前が心配するまでもなく、くだらん悪戯だろうよ。着たのは一通だけだし全然危険もないよ」
近藤さんはそんな事を言って話を逸らした。それよりも紅椿の件についてなどと言っている。
だが俺にすれば紅椿の件などどうでもよかった。奴等は捕まらない。尽力している所残念だが、俺や総司がいる限りこれは絶対だ。
「待ち伏せの形で紅椿を捕らえるのはどうかと言う案があってな。今はそれが最有力候補なんだが」
「脅迫状、見せてくれませんか」
「トシ」
「紅椿を捕らえるより先に、近藤さんにもしもの事があったらどうする気ですか。心配なんですよ」
「お前は、心配し過ぎだよ」
「近藤さんが心配しなさ過ぎなんです。ちゃんと出所を調べますから脅迫状を見せて下さい」
ううん、と渋っていた彼だったが結局押しに負けて脅迫状を渡した。犯人は随分と癖字らしい。
俺はそれを手にして近藤さんの部屋を後にした。紅椿の話は手紙の犯人が分かってからである。