キミが刀を紅くした
近藤さんから脅迫状を借りた俺はある監察に出所を調べるように指示をした。住所と飛脚が分かれば何とかなるだろうと状そのものは俺の懐に入れてあるのだが。
「どうしたんですか土方さん」
俺はと言えば、頓所の書類を少しだけ片付けてから街外れへ赴いていた。と言うか瀬川の自宅を訪れたのだ。訪ねたい事があって。
戸を叩いて数秒待つと瀬川は出てきた。彼は出会った頃とは違って警戒の一つすらしていない。
「瀬川、確かお前に紅椿から西崎夫妻の依頼が来ていたはずだが」
「はあ、来てましたが」
「西崎露子は生きているな?」
「いいえ」
瀬川は笑顔のままそう言った。なるほど邪魔くさい男だ。瀬川だからこそ大和屋が右往左往するわけだな。彼は意識が強すぎる。
紅椿には似合わない。
「なら沢田露子を知っているか」
「存じません」
「嘘は為にならん。大和屋の鍛冶屋で総司が話を聞いたはずだ。共にいた女の名前が沢田露子。もう一度聞く。知っているな?」
下らない駆け引きは紅椿にのみ使えば良い。俺は疲れているのだぞ。お前は知らないだろうがな。
紅椿、新撰組、幕府、攘夷。
「彼女をどうするおつもりで」
「どうされたら困るんだ」
殺されたら、捕まえられたら。きっと困るだろうが。瀬川は言えないだろう。それを言うと沢田露子が西崎露子だと言っている様なものだからな。さあどうする。
なんて。だから駆け引きをしている暇はないのだ。遊んでいる暇もない。脅迫とは言え近藤さんの命がかかっているんだから。
「ならお前も来い、瀬川」
「どこへ」
「沢田の所に行く。西崎龍之介の件とある反幕についての事情聴取と言う所だな。来るか来ないか」
「行きます」
俺が先を歩き始めると瀬川は後からちょこちょことついて来た。しばらくすると彼は先頭をきって歩き出した。否、助かる。
俺は沢田の家を知らない。