キミが刀を紅くした
京さんとやらは少し不服そうにしていたが、吉原が促したからか従ってくれた。帰ろうとする二人を慌てて引き留めて、露店商と共に頓所へ来る様に指示をする。
幕府の目付け役は頓所にまでは入って来れないらしかった。一応お忍びでやっているのだろうな。
「島原近くで見つけた無許可の露店商だ。反省の色は見られるがまあ規則は規則だからな、頼むぞ」
と、近くを通った隊士に告げて俺は吉原と女を引き連れて少し奥まで進んでいく。取り調べをすると言うよりは聴取だから、部屋は何処でも良かったのだけれど。
奥の空き室を見つけた俺は二人を先に部屋に入れて襖を閉めた。
「一つよろしいですか」
女が伺った。
「何だ」
「その掛け軸……」
「あぁ、見るか?」
俺は掛け軸好きの掛け軸買いを邪魔した詫びにでもと思い、沢田の所で借りた掛け軸を机の上に広げてやった。女は見るなり思い切り息を吸ってゆっくり息を吐く。
余程、好きらしい。
「それ、露さんの字だわ」
「露さんって――」
「少し前まで華峰に勤めていた人です。最近は見ないけれど違う屋敷に行ったのかしら。丑松さん」
「さあね。俺は京さんのいる場所さえ覚えておけば満足だから露さんの事はあんまり分からないな」
「そうか――悪いが吉原に聞く事が増えたみたいだな。あんた、京さんだったな。すぐ済むから隣の部屋で待っててくれないか」
「はい。構いませんよ」
立ち上がった女は言った通り、隣の部屋に入ったらしかった。俺は吉原を目の前にして息を吐く。
「西崎露子、だな」
「なにが?」
「さっき話に出た奴だ。島原の番犬に居場所が分からない島原の女なんていないはずだが?」
「俺にも言えない事はあるんだけどな。島原の事は誠にとやかく言われる筋合いもないしね」
「答えろ。しょっぴくぞ」