キミが刀を紅くした
「そんなに聞きたきゃ宗柄にでも聞いて。俺は言いたくない」
「大和屋?」
「知ってるから。今回の事は一応二人の秘密になってるけど、宗柄なら教えてくれるはずだよ」
吉原が嫌がるなんて珍しい。俺は小さく頷いた。すると彼は「京さんも連れて帰るからね」と一言だけ断って部屋から出て行った。
俺は掛け軸を眺めてから立ち上がり大和屋の鍛冶屋へ向かった。
近藤さんに送られてきた脅迫状はあの掛け軸に似て癖字だった。掛け軸だから達筆なんだと思っていたが照らし合わせれば同じ字。
沢田は西崎龍之介からあの掛け軸を貰ったと言った。そして吉原の連れはあの掛け軸を書いたのは露さんだと言った。多分西崎、いや沢田露子の事だろう。
「おい、大和屋」
露さんが沢田露子だと証言する奴が出来ればこの件は終わる。瀬川は誤魔化すし吉原は言わないし後は――仕方なく大和屋だけだ。
敷居を跨ぐと煙の根元をくわえた男が俺を確認した。仕事をしている訳ではなさそうだが、暇をもて余していた訳でもなさそうだ。
「確認したい事があって来た」
「へぇ」
「単刀直入に聞かせてもらうが、島原で働いていた露さんと呼ばれる女を知っているな?」
「それが?」
「西崎露子と同一人物か?」
「わざわざそれだけを確認する為に来たのかよ。新撰組も暇だな」
「吉原には許可をもらってるから教えてくれ。出来れば今すぐに」
煙管を口から離して煙を吐き出した大和屋は笑いながら手をひらひらさせた。俺はただ待った。
飄々とした様に見えて何を考えているか分からない男だから、油断ならない。瀬川にも似てる。こいつも自分の意志を譲らない。
「露さんは西崎露子だよ。俺と村崎が島原から逃がして沢田操の所まで出してやったんだ。満足か」
「島原から逃がした?」
「あぁ。お陰で吉原のやつと一戦交えるはめになっちまったがな」
だから吉原は嫌がったのか。逃がしたと言う事は負けたから。
「助かった。ありがとう」
「何だよ。らしくねぇな。こんなぐらいで礼なんて言われても嬉しかねぇぜ。事件か何かか?」