キミが刀を紅くした
「いや。だが――沢田露子を捕らえる事になりそうだ。悪いな、瀬川とお前が必死で逃がしたのに」
「必死じゃねぇよ。村崎はどうか知らなぇが逃がした後の事まで面倒見てたらキリがねぇからな」
そう言った大和屋は深く息を吸い込んで「だが」と呟いた。少しだけ瞳の色が沈んだのは鍛冶屋自体が薄暗いからだろうか。
「村崎はショックを受けるかも知れねぇな。ちょっと行ってくる」
大和屋はそう言って立ち上がると鍛冶屋を出て行ってしまった。俺は急いで追いかける。瀬川の所に向かう気だろう。俺も彼から刀を受け取らなければいけない。
だが大和屋が向かったのは街外れの瀬川の家ではなかった。とある飛脚屋の小屋である。俺は彼に続いた。すると隊士が一人。
「ご苦労様です」
大和屋はさっさと飛脚と話し始めていたので、俺は隊士に向きなおり成果を伺った。すると彼は流暢な喋りで報告を始めてくれた。
一番最近、頓所行きの手紙を出したのは若い女だったらしい。目の前で文字を書かされていたから飛脚はよく覚えていたそうだ。
「書かされていた?」
隊士が頷いた。言葉の意味を詳しく訪ねようとした時、大和屋が不適に笑った。俺は彼を見たが彼は俺を見ずに静かに息を吸った。
「やっぱり土方の言う通りだったぜ。西崎露子は脅迫状を書いてはいるが真犯人は他にいるらしい」
「なに?」
「あの女は不貞な夫に愛想を尽かして家を出て子どもを養う為に島原に入った。で、千両役者と恋に落ちたんだぜ。命を懸けて島原を出たんだから幸せに暮らしたいのが彼女の望みだったはずだろ」
確かに。
「新撰組にちょっかい出してあの女が得するとは思えねぇ。なら彼女が消えて困る奴がいるって事だろうよ。商売から逃げられたら困る奴がな。心当たりはあるか?」