涙の雨
「先輩!」
そう何度呼んでもあの騒ぎじゃ、聞こえる訳がない
前に進もうとする度に他人と肩がぶつかって、まともに歩けなかった
携帯を取り出して
山田に電話をかけようとしても
周りの人の体と体が密着し合って
自由な動きすら取れない
―何処行ったのかな…
本堂まではまだ距離があるし
かといって今さら入口に戻る訳もいかない
楽しそうで賑やかな声が
いろんな場所から聞こえてくるのに
不安が頭をよぎる…
「―遼太!」
その瞬間、自分の腕を力強く掴み
一本外れた通りまで
引っ張ったのは山田だった
「大丈夫か?遼太」
「はい…」
俺が少し疲れた様子で言うと、ごめんと謝ってきた
「俺が一人でスタスタ行っちまったから…。もう疲れちゃったか?」
困った様子で俺を見つめる山田
「いえ、本堂まで後半分ですよ?ここまで来たら、お参りしないともったいないです!」
俺が笑って話すと
山田も笑い返してくれた
「今度は離さねぇからな」
そう言って、俺の手をギュッと握ってきた